房姫様物語⑨

「よね」は大日寺まで来た時に
大きな石の上で一休みした。
季節は春で、
ポカポカした陽気の中にウグイスの声も聞こえ、
そのうちついウトウトと眠ってしまった。

しばらくしてそこを通りかかったのが、
宝蔵寺の和尚さまだった。
「や、こんな所で尼さんが居眠りしているぞ。
風邪をひいたらいかん」
和尚さまは「よね」を起こした。

「私は大はんにゃ経六百巻を
六十六ヵ所のお寺に納めてゆく六部でございます」
「よね」がそう説明すると、
「今日は日暮れも近い。私の寺はすぐ近くなので。一晩泊まっていきなさい」
和尚様はそういって「よね」を寺に案内した。

「よね」は宝蔵寺で夕食をご馳走になった。
その翌朝、
「とてもお世話になった御礼に、
お寺のお手伝いをさせてください」
「よね」がそう願い出ると、和尚さまは喜んだ。
「それは大助かりです。ぜひお願いします。」

房姫桜 引用:福地いろどりむら通信 23号掲載
構成・挿絵:北野玲/参考文献「宝蔵寺の昔話・房姫様物語」(山田貞一)

宝蔵寺は臨済宗・妙心寺派の寺です。
寺の前進である宝蔵寺が、この地に永くありました。 その昔、この地に来た巡礼の女人「よね」が、宝蔵庵で出家して尼僧となり、房姫様と呼ばれて親しまれました。
四十年ほど仏道に勤め、享和二年(一八〇二)に六二歳で浄土に旅立ったのです。

房姫桜はその尼僧を偲んで名付けられたヤマザクラで、樹齢二百数年です。八百津の天然記念物として文化財に指定されています。 周辺の樹木や進入林道の整備など、「房姫桜保存会」(金井正尋代表)では環境保全活動をおこなっています。
4月中旬が見頃で、ライトアップもします。 山里ならではの幻想的な夜桜を是非一度ご覧ください。


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(宝蔵寺住職・小笠原正)
光明山 宝蔵寺 〒505-0422 岐阜県加茂郡八百津町久田見4297
[2019/08/19 投稿]