宝蔵寺の昔話 房姫様物語06
よねは、弟を背負って寺の境内の掃除をした。落葉の清掃は子供にとって大変な仕事だが饅頭を喰った罰として自分から言い出したので、えらくともやらねばならぬと心に決め、実行する”信”の強い少女で有った。
その後は境内ばかりぢゃなく和尚様の毎日のお勤めの準備なども手伝う様になり、お経も何時とはなしに覚えてしまった。時々字なども教えて貰って若干は覚えた。それから数年立ち檀家の法要より葬儀などにも和尚様と一緒に行くようにもなった。
或る時徳行寺の壇徒総代の人が寺に来て『大磐若経六百巻』奈良六十六ヵ所に納むる人が誰かいないか探して居る話を和尚様として居るのを耳にした。 大磐若経六百巻 のお荷を各地六十六ヵ所に約六十日かけて納経する仕事でこうした人を六部と略して云う。
和尚様は「誰かないかなあ」と思案して居たが「そうだ”よね”にすすめて見よう」と思いつき、お鉢が遂によねの処に廻って来た。
よねは、心配だったが引き受けた。行ったことのない旅の空、今晩泊まる所もない。田圃の小屋でも炭小屋でもいい、夜露だけ凌げればいいのだ。
食べ物は行く先々で乞えばよい。和尚様は本尊の脇に有った観音菩薩様と丸い磨かれた石の玉を呉れた。
檀家より旅の安全が守られる様にお金と刀渡り約五、六寸の短刀を戴いた。旅で短刀の出番が絶対無い様にと祈り乍らも護身用として懐に、黒装束、蓑笠、手甲、却袢、わらじ、背中には背負櫃で大磐若経のお荷、観音様、丸い石、若干の下着なども入れて旅廻りの準備が出来ていよいよ明日より六十日位の旅立ちで有る。